STORY OF SANCHAI

サンチャイピーナッツバターができるまで

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ネパールはヒマラヤ山脈をはじめ、小さな国土の約8割が山岳地帯です。それらは、凸凹した険しい道が多く、電気などのインフラも充分ではないため、未だ産業化されていない地域が多くあります。コタン郡もそんなエリアの一つ。コタンのチャブダラという村にSANCHAI のピーナッツバター工場があります。

その小さな工場を、SANCHAI代表の仲が、そこに住む人々と一緒に作った、SANCHAI が生まれるまでのお話です。

2016 年10 月。初めてネパールを訪れた私はカトマンズからコタンに向かっていた。道中崖崩れに遭遇してしまい途方にくれていると、ジープのドライバーが車をキュッとU ターンさせて、急斜面をものすごい勢いで突破し、激しい山道を進み始めた。ポカンとする私を横目で見つつ、「こんな酷い道、動物でも通らないのに車でも通るんだね。」と呟いて笑いながら、道なき道を進んでいく。車の窓から下を見ると、すぐ横は崖っぷち。万が一落ちたらきっと命はない。激しく揺れる体を必死で抑えながら、腹の底から湧き上がってきたのは恐怖ではなく、強烈に感じる面白さだった。「人生っていつどうなるか分からない」という至極当たり前なことに深く納得しながら、普段その当たり前なことを全く感じていなかった自分に気がつく。生きるって本当はこういうことだよな、と考えていた。

目的地のチャブダラに到着した時はすでに薄暗く、山道に慣れない私は宿までの道のりをバイクに乗せてもらうことになった。落ちないように、とみんなの荷物と一緒にバイクの後ろにぐるぐる巻きに縛り付けられた。首しか動かない。どう考えても拉致されているような自分の状況を想像すると可笑しくなって来た。山道はものすごいオフロードで、暗闇で何も見えなくても、かなり危険な状況だと分かる。首しか動かせない私は、完全に身を任せることにして、空を見上げていた。目に見えるのは一面に瞬く美しい星だけ。この光景とこの感覚を私は生涯忘れることがないだろう。今私が対峙している世界は創りこまれた世界の外側、スペクタクルの外側にある世界だ。

きっと、こっちこそが本当の世界なんだろう。

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コタンに来た理由は、IoT サービスを使った寄付のプロジェクトを行うことだった。プロジェクトの目的である、コタンにある学校の子供達の学費をまかなうための継続寄付を強化する仕組みを考える中で、寄付だけに頼るのではなく、子供たちの親に経済的な基盤を作れたらより良いのではないかと考えていた。そこでリソースとしてあったのが、コタンで昔から作られていたピーナッツだった。

コタンに到着した翌日から、農家を訪ねながら情報収集を行う。山の中腹に点在するコタンの家々は、隣の家に移動するだけでも一苦労だ。でもその分、各家の庭先からは眼中いっぱいに広がる山並みとゆっくりと流れていく雲以外は何もない、美しい景色を眺めることができる。

ある農家のおじさんと甘いスパイスティーを飲みながら話していた時のこと。

「ここは本当に良いところでしょう。僕たちはここで生まれて、ここで育って、とても幸せなんだ。みんなここを愛している。子供達もみんなそう思っていると思う。だけど、ここには学ぶ場所も、働く場所もないから、若い子たちはみんな都会や海外に行かなければならないんだ。」

おじさんのその言葉を聞いた時、「この地に働ける場所を作り、彼らの直面している課題を解決したい」と思った。そして、もう1つ。彼らがこの地で感じる幸せを守りたい、とも思った。何故ならば、おじさんが感じているコタンに対する愛情は、私がここに来て強烈に感じた面白さときっと同じ種のものだ。

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そこから約1年間。工場を立ち上げるために邁進する中で、様々な課題に対面した。その中でも、現地の人々との信頼関係を構築することが成功できるかどうかの大きなポイントになると思った。コタンの人々はいつも快くYES と言うものの、実際には約束を守らないことがほとんどだった。これでは、工場なんて成り立たない。私は考え方を変えることにした。約束を守る、時間を守ることが彼らにとって「あたりまえ」ではないだけで、彼らに「そうしたい」と思わせれば良いだけの話だ。

2017 年12 月、工場オープンまであと3週間。私たちは手分けをして、近隣の家々を1軒ずつ訪ね、自分たちの思いを伝えてまわった。

「私たちが工場を建てる目的は、あなたたち自身の手であなたたちのための工場を作ること。工場を続けていくためには、自分たちの手で価値のある良いものを作ることが不可欠だ。そのためには守るべきこと、努力すべきことがあり、その成長する意志を持つ人と一緒に私たちは働きたい。」

結果、時間通りに50人以上の女性たちが集まってくれた。その中から、2度の面接で18歳から39歳まで8人の女性たちを選んだ。彼女たちに共通していたのは「私自身が成長し、この地を良くしたい」という強い意志だった。トレーニングを開始すると、普段からいつもピーナッツを食べていた彼女たちは、とても慣れた手つきで殻をむき、ローストをし、薄皮を外していく。個々の作業だけではなく、いつのまにかそれぞれの個性に合わせて自然と役割分担している。まとめ役として声をかける子、みんなが気がつかないような細かい仕事を丁寧にやる子、雰囲気を盛り上げる子。活き活きと手を動かす彼女たちを見て、心から思った。

「世界には能力を持っているのに、それを活かすチャンスがない人々がたくさんいる。でも、小さなチャンスさえあれば、彼女たちのようにそれをしっかりと掴んで、人生を自分の力で変えていける。」

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工場オープンから数ヶ月経ち、工場の女の子たちはすっかり作業をマスターしていた。自分たちで声を掛け合い、効率を良くする方法を考え、さらに歩留まりを減らす工夫をしていた。私は正直、今まで一度も仕事に就いたことがない彼女たちが、働くことに対するモチベーションを保てるのかどうか、不安に思っていた。徐々に慣れてしまうとつまらなくなって、適当になったり、仕事が嫌になったりするのではないか。

そんな私の不安に対して、彼女たちは全く逆だった。

 

最年長のビナは私にこう言う。

「私たちは各々みんな個性があるけど、一つのチームになって働いています。

私たちはみんな各々の色があるけど、みんなが同じ色になってきています。

私たち成長しているんだなと思います。

今まではいつも森に行って家畜の餌を集めたり、家事をしたり、世界はどんどん変わっていくのに、私たちの毎日は同じことの繰り返しで、それを変えることができなかった。

今は私たちの人生が変わったと感じています。

彼女たちは変わらず仕事を愛し、楽しみながら働いています。

遠い日本で彼女たちが作ったピーナッツバターが好評だと伝えると、目に涙を浮かべて喜びを噛み閉めながら、みんな誇らしそうな顔をします。

SANCHAI 工場の女の子たちからみなさんに、心を込めて

「ありがとう!」